炉開きとは?
11月に入りますと冬に向けて囲炉裏を準備したり、茶道の世界では風炉と呼ばれる火床から炉を開いて用いるようになります。炉とは畳の部屋に四角い穴を開けそこに五徳を入れ、炭を組む小さな囲炉裏です。この上に釜を掛け、湯を沸かし、お茶を点てます。炉は風炉よりも暖かく、室内も同様になりますので、寒さの厳しい冬の設えと言えます。
亥の子餅とはどんなお餅?
昔は木造の家だったことも関係するのですが、火事が大変心配されておりました。亥は五行思想では”水”にあたり、火伏せの神様とも考えられています。このため火災を避ける意味も込めて亥の月亥の日に囲炉裏を開け、炉を開け、炬燵を出したりするようになったと言われます。この亥を象ったお菓子が亥の子餅です。そして猪は子孫繁栄の象徴でもありますので、収穫祝いとして大豆、小豆、ささげ、胡麻、栗、柿、糖を混ぜて、猪の子形に作られていたものとも言われます。
さらに実はあの源氏物語にも亥の子餅は登場しています。第五帖「若紫」に十月初亥の日に紫の上に亥の子餅が用意される場面があります。平安時代にはもうすでに原型となるものがあったということなのかもしれません。
時代の変化や材料によって現在ではいろいろな亥の子餅が作られていますが、新妻屋では二種類をご用意しています。
ひとつは、黒胡麻、小豆を混ぜた求肥餅で小豆の漉し餡を包んだもの。もうひとつはこなしと呼ばれる生地に金胡麻を混ぜ、やはり小豆の漉し餡を包んだものです。黒と金、種類は違いますが、胡麻の香り漂うお菓子になっています。
亥の子餅を作っているお店は実は意外と少ないです。お見かけの際は茶道に関わらず、火から逃れるという願掛けの意味も込めて、炬燵を出すついでにお召し上がりいただければ幸いです。
炉開きと口切(くちきり)
炉開きと合わせて、茶道の世界では口切(くちきり)と呼ばれる行事もこの時期に行われます。口切の茶事といい、その年に摘んだ新茶を茶壷から出し、石臼でひいてお茶を点て来客をもてなします。
炉を開き亥の子餅を食べ、茶壷を開けて新茶を楽しむこの行事は、茶人にとっては新たな気持ちで1年が始まるような行事です。このためお正月(初釜)と並んで大切な行事と言われています。
新茶に合わせて亥の子餅を召し上がるというのも良いのかもしれません。